カウンターにお座りになったご婦人が、
こんなことをおっしゃる。
「わて、大阪やさかい、
そばはよう食わん。
いつもうどんばかり。」
そう言いながら、
いざ、そばをお食べになると、
見事な食べっぷり。
すっと、そばを口にたぐり込むと、
舌の上を滑らせて、
喉に落とし込んでいく。
まさに、生粋の江戸っ子の、
そば通の食べ方そのもの。
そして、
「そばの方が、角があって、
気持ちいいなあ。」
などとおっしゃるのだ。
この方、いつも、うどんも、
噛まずに召し上がるのだろうか。
と思って、後で、他の方に聞いてみたら、
関西や四国では、
噛まずに召し上がる方が、
結構いらっしゃるのだそうだ。
、、、知らなかった。
うどんは、そばより太く、
小麦粉を使うこともあり、
ゆで時間はかなり長くなる。
そのため、
どうしても、角が取れて、
麺が丸くなりやすい。
だから、ツルツルと食べやすくなるのも確かだが、
やはり、うどんの角の立っているのを好む方も、
多くいらっしゃる。
そこで、うどん屋さんでは、
茹で汁にある工夫をして
角が溶けないようにしているのだね。
西日本にある、うどんの製麺屋さんも、
大いに研究して、面白いことに気づいたそうだ。
うどんの断面を、正方形にするよりも、
やや長方形にした方が、
角が立って、食感がいいというのだ。
その方の説では、10対7ぐらいが、
一番食べやすいのだそうだ。
なるほど、うどん、恐るべし。
などと負けてはいられない。
そばの話に戻さなければ。
というのは、そばの世界では、
長方形の方が、喉越しがいいことは、
先刻承知なのだ。
江戸そばの太さの標準とされるのが、
「切りべら二十三本」。
二十三本というのは、
一寸(約3㎝)の幅の生地を、
23本に切ること。
つまり、1.3ミリの太さの麺となる。
切りべらというのは、
伸ばした厚みよりも薄く切ること。
例えば、1.5ミリに伸ばした生地を、
1.3ミリに切るということだ。
結果的に、切り口は長方形になる。
これを、伸ばす手間を省いた、
職人の逃げという人もいるが、
昔の人も知っていたのだろう、
そうした方が、そばの食感が良くなることを。
なお、極端な切りべらは、
麺が蛇のように、暴れるので良くない。
また、生地の伸ばしの方を薄くした「伸しべら」は、
食感が極端に悪くなるようだ。
戦後は、そばの手打ちが無くなり、
ロール式のそば打ち機が主流になった。
これで細めのそばをつくると、
みんな丸い麺になってしまう。
そのせいか、食感を大切にする、
そばの食べ方が、だいぶ廃れてしまったようだ。
多くの方が、
そばを、ご飯でも食べるように、
口に含んで、くちゃくちゃと噛んでいる。
せっかくの、手打ちのそばの食感を、
舌の上を滑らす感覚を、
もっと味わっていただきたいと思っているのだが。
あの、大阪の女性のように、
うどんを召し上がる西日本の方々のほうが、
その点をご理解いただいているのかな、
、、、などと思ってみたり。