そばコラム

何気なくこなしている、ものの数え方

●さて、問題です。
 寿司屋で、
 「マグロ、1カン(貫)」
 と頼めば、何個のすしが出てくるのだろう。

 えっ最近は、「皿」でしか数えたことがないって?

 外国人が日本語を学ぶ時に苦労することの一つが、
 ものの数え方だという。

 日本語では、数字の後に、
 それにふさわしい言葉をつけて、
 その数を表す。

 例えば、子供三人、大人五人、
 船が一艘、飛行機一機、
 我が家に一台、となりに五台の自動車。
 犬はワンワン二頭いて、猫は三匹昼寝中。
 ウサギは五羽で跳ね回る。
 花は一輪、木は一本、
 バラを十本で一束にして、六ヶ所に送る。

 それぞれに、ものによって、
 また、その状況によって、
 私たちは、数え言葉を選んでいるのだ。

 紛らわしいことに、
 同じ犬にしても、
 抱きかかえられるような小さなものは、
 「匹」と呼び、
 大きい犬は「頭」と呼ぶ。

 海で泳いでいる魚は「匹」で数えるが、
 魚屋に並ぶと「尾」に変わる。
 イカやカニは「杯」と呼ぶ。

 などなど
 いろいろな決まりがあるのだねえ。

●さて、そば屋の世界では、
 どんな数え方をするのだろうか。
 
 お客さまが、
 「そばを一枚おくれ。」
 といえば、
 もりか、ざるか、冷たい盛ったそば。
 「そばを一杯。」
 といえば、かけか、丼に入ったそば、
 ということになる。
 
 だから、
 「寒かったから、二杯立て続くに食べた。」
 「盛りが少ないから、五枚ぐらいは食べられる。」
 と聞けば、何を食べるのか想像ができる。

 厨房では、
 それぞれの注文を「一丁」と呼ぶらしいが、
 私は、使わないなあ。

 なお、店によっては、
 「一人前」と頼むと、もりが二枚出てきて、
 「一枚」と頼むと、本当に一枚しか出てこない、
 複雑なところもある。

●栽培されたそばの実の「一粒」一粒は、
 収穫されて袋に詰められる。

 そうして「一俵」ごとに出荷される。
 ちなみに、そばの「一俵」は45キロ。
 米の60キロとは、ちょっと違うのだね。
 大麦は50キロ、炭は15キロで「一俵」と呼ぶそうだから、
 人のかつぎやすい大きさで、決まるのかもしれない。

 それが、製粉所に行って、
 粉にされて紙袋に入れられると、
 「一袋(たい)」と呼ばれる。
 そば粉の「一袋」は22キロ。
 どういうわけか、そのような決まりになっている。

 そうして、各店でそばにされて、
 一人前ずつに分けられると、
 「一玉(たま)」と呼ばれたりする。

 そばの麺は「一本」と数え、
 かんだたには、
 「そばは八本ずつ食べる」
 という決まりがある。
 (あまり気にしなくてもいいけれど。)

 乾麺の場合は、それを束ねて、
 「一把(わ)」とか「一束(たば)」とか呼ばれる。
 それが箱に入れば「一箱」、
 袋に入れれば「一袋(ふくろ)」。
 よく、土産物屋の店先で売られているやつだ。

●注文が
 「ビールを一本」といえば瓶ビール、
 「ビールを一杯」と言われれば生ビール。
 箸は「一膳」、床に落として、片方だけだと「一本」。
 おつまみは「一皿」「一品(しな)」。

 店で座る椅子は、
 脚が四本あっても「一脚(きゃく)」、
 テーブルは「一卓(たく)」。
 楊枝は「一本」、紙おしぼりは「一枚」、
 メニューブックは「一冊」または「一部」。

 座敷に上がって脱いだ靴は「一足」、
 上着をかけるハンガーは「一本」。
 壁にかかった絵は「一点」、
 掛け軸だったら「一幅(ふく)」、
 生け花が飾ってあれば「一鉢(はち)」

 帰りに頼むタクシーは「一台」、
 おっと、忘れちゃいけない、傘は「一本」。
 勘定書は「一枚」、
 ええっ、「一通」にするほどツケが溜まっている。
 ということで、「一組」のお客さまが、
 お帰りになった。

 なるほどなあ、
 知らず知らずのうちに、ずいぶんと、
 ものを数える言葉を使い分けているのだ。

●さて、おそばの前に、
 「ちょっと一杯」という方もいらっしゃる。

 この「一杯」というのは、
 不思議な一杯で、
 たとえ、おかわりを重ねようとも、
 いつまでも「一杯」なのだ。

 「そば前に酒を四杯飲んだ。」
 などというのは、
 警察に尋問された時か、
 馬鹿正直な人の日記に書かれるぐらいで、
 たいていは、
 「ちょっと一杯」で済まされる。

 いくら飲んでも「一杯」。
 これも、不思議なものの数え方だなあ。

 ちなみに、寿司屋で
 「マグロ、一貫(かん)」
 と頼むと、老舗の店では二個出てくる。
 ところが、スーパーなどで頼むと一個。
 まぎらわしいなあ。

 本来は、江戸時代の穴あき銭一貫分の大きさで、
 そのままでは、大きくて食べにくいので、
 二つに分けて出したのが、始まりだとか。
 つまり、握り鮨2個で一貫ということ。

 ところが、最近は、手巻き寿司の「巻」や、
 「個」がなまったものとする考えがあり、
 一個のすしをあらわす意味と、
 混同されてきているようだ。
 だから、確認した方が無難。

 ところで、そば屋で、
 「そば、一貫」と頼むと、
 生そばで3.75kg、
 かんだたの場合だと約30人分のそばが、
 どかんと出てくるのでご注意を!