2011年08月

日本の味を守る「猫の好物」

 私の家では、猫を一匹飼っています。

 もっとも、猫の方では、あまり飼われているという実感がなさそうで、いつも、家の外を飛び回っています。

 私に近寄ってくるのは、寒くて仕方がないときと、お腹がすいたときだけ。

 あとは「あなた誰?」という感じで、呼んでも振り返りもしません。

 そんな素っ気のない猫なのですが、私が台所で、あることを始めると、いつの間にか、足下にすり寄ってくるのです。押し入れの奥に寝ていても、縁側の戸棚の中に潜り込んでいても、この音を聞くと、すぐに飛んできます。

かつお節

 そうして、いかにも「あなたの飼い猫ですよう。」というふうに、私を見上げ、甘えた声で鳴くのです。

 最後は、その鳴き声に負けた私から、それのお裾分けを、しっかりと、いただいていきます。

 あることとは、かつお節を削ることです。

 ちょっと、出汁をとりたいな、畑から採れた青菜のお浸しに、冷や奴にまぶしたいなあ、これからたくさん採れるゴーヤの炒め物にも入れよう。

 そういう時に私は、かつお節の削り箱をとりだして、しゃかしゃかと、堅いかつお節を削ります。

 その音に、我が家の猫は、敏感に反応するのですねえ。そうして、餌皿に入れられた削りたてのかつお節を「ウゴウゴ」と言いながら、あっという間に食べてしまいます。

 一度、出汁をとったあとのかつお節をやったのですが、クンクンと匂いを嗅いだあとに、「馬鹿にするんじゃないわよ、フン!」と言って(いや、そう言ったような気がするのですが。)、行ってしまいました。やっぱり、猫にとっても、かつお節は削りたてでないと、いけないのですね。

 

 

 私は昭和29年生まれです。
 多分、その頃までの年代の方は、子供の頃、かつお節を削らされた経験があるのではないでしょうか。使い初めのかつお節は、太くて、子供の手には持ちづらいものでした。しかし、削っていくうちに,だんだん小さくなり、本当に小さくなると、削り箱のかんなを逆にして、手前に引くようにして削ります。そうして、最後は、新聞紙の間に挟んで、金槌で粉々に割って使いました。

 子供の頃、こういう経験をしたので、かつお節は、削って使うものだと思っています。ええっ、今は袋に入っているのを使うのが、当たり前ですって?

 だから、店でかつお節を削っていると、「それ、なんですか?」と聞く、若い方がいらっしゃるのですね。

 かつお節は、縄文時代から、似たようなものが食べられていたと言われています

 薫製してカビを付ける今の製法が広まったのが江戸時代。以後、日本料理の出汁の定番として、使われてきたのです。

 もちろん「かんだた」でも、料理に使わせてもらっています。このかつお節で引いた出汁は、噛みしめることが出来るような、深いおいしさであふれています。定番の「鬼おろし」には、この削りたてのかつお節が、そばの上に載ります。

 そば汁には厚削りの節を使うので、工場で削ってもらった袋入りを使っておりますが、、、。
 さて、このかつお節を作るのには、ずいぶんと手間がかかります。それだけでなく、芯まで乾燥させるために、時間もかかるのですね。おいしいかつお節を作るために、伝統的な製法を守って作られているのです。

 ところが、最近は、このかつお節の消費量がずいぶんと減っているという話を聞きました。製造工場も、だいぶ少なくなってしまったとか。今は、簡単に出汁の作れる化学調味料などがでまわっているからでしょう。

 でも、かつお節の出汁で慣れてしまうと、化学調味料などは使えません。

 「ニャ~。」 よしよし、そうか、お前もか。

 しかし、「猫にかつお節」とは、よくいったものですねえ。

かんだた店主 中村和三