
私は「手打ちそば屋かんだた」を始める前に、他の場所で「純米酒と手打ちそばの店、なんやら洞」という、居酒屋をやっていました。
さて、そこでそばを打っていた頃の話です。
私は、醤油を探していました。というのは、そば汁に使うための、いい醤油が見つからなかったからです。
居酒屋を始める時に、そばの打ち方を知っている方に来てもらって、そば打ちのやり方を学びました。以後、自分で、そばの打ち方を工夫してきました。そば打ちは、だんだん上手になるのですが、どうも、教わったそば汁の作り方が気に入りません。
そば汁というのは、最初に、汁の元になる「かえし」を造り、それを瓶(かめ)の中で寝かしておきます。そこに濃いめに煮だした「出汁」を合わせて造るのです。
その「かえし」は、醤油と砂糖とみりんを使って造ります。
醤油を熱して、かなりの量の砂糖を溶かし、煮抜きしたみりんで仕上げます。最初に教わった時に、ええっ、こんなに砂糖を使うのだと、驚きました。
たしかに、他の店などを食べ歩いてみると、かなり甘い汁が目立ちます。口の中に、ホワッとした甘さが残るのです。
もっと、砂糖を減らしたらどうだろうか。そうしたら、今度は、しょっぱいばかりの汁になってしまいます。そこで、みりんの量を増やします。
口に残る甘さののない汁を造ろうと思っていたら、ついに、砂糖を使わずに、醤油とみりんだけで、「かえし」を造るようになってしまいました。
そこで大きな問題が二つできました。
一つは、とても原価が高くなってしまうこと。砂糖に比べれば、時間と手間をかけて造られるみりんは、遥かに高価なものなのです。
でも、せっかく、そばをおいしく食べていただくためのそば汁、妥協する訳にはいきません。
そうして、もう一つは、砂糖を使わないと、醤油のうまみが、うまく出てこないことです。それまで使っていた、そば屋さんでよく使われる大メーカーの醤油では、ただ、塩気の強い汁になってしまいます。
どこかに、みりんと相性のいい、しっかりと造られた醤油はないだろうか。そこで、私の醤油探しが始まりました。

いろいろなメーカーの醤油を取り寄せてみたのですが、どうしても今ひとつでした。醤油としてはおいしいのに、汁にしてみると、その醤油らしいおいしさが消えてしまうのです。
自然食品店で扱っている、九州の醤油を取り寄せてみました。確かに、いい醤油なのですが、今ひとつもの足りません。関西の薄口醤油も使いましたが、そば汁には合わないようです。地元で売られている醤油も試してみましたが、なかなかいいものがありません。
どこかに、そば汁にしても味の消えないような、しっかりと造られた醤油はないだろうか。
そんな醤油探しをしながら、2年ぐらいたった頃です。たまたまちょっと遠くに遊びに行って、車で通りがかった道筋に、障害者の方々の運営する店がありました。その店を、新聞で知っていたので、ちょっと立ち寄ってみました。
そこでは、障害者の方々の造られた、石けんや、陶器、手芸品などが売られていたのですが、地元の野菜コーナーもあって、野菜や食べ物も売られていました。そこに、やはり、その地元で作られている醤油が一升瓶で並んでいました。
つい、それを買って帰りました。
味わってみると、かなりしょっぱい醤油です。それをみりんと合わせて瓶に入れておきました。
しばらくして、その「かえし」と出汁とを合わせてみました。そうすると、おやっと思いました。何か、独特の、いかにも醸し出されたような味がするではないですか。
製造元に問い合わせると、長野市内に、その醤油を扱っている生協がありました。早速、そこから仕入れを始めました。
みりんとの、合わせる量を工夫し、砂糖を使わなくともしっかりとこくのある汁が、やっとできるようになりました。
今では、月に一度ぐらい、片道一時間かけて、製造元に仕入れに行っています。
昔からの集落の中にある、小さな醸造所で、味噌と醤油を作っています。醤油は、古い木の樽で仕込まれていました。その樽に住み着いた酵母が、深みのある味を作り出していたのです。
天然醸造のために、季節によって、微妙に味が変化します。それが、この醤油の面白いところです。
いい料理を作るには、いい素材と出会うこと。私は、この醤油に、ほんの偶然に出会いましたが、運が良かったと思います。そうして、このような醤油を造り続けている、醸造所の方々にに、深く感謝したいと思います。
店主 中村 和三
畑仕事から学ぶこと
天然醸造醤油との出会い
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「手打ちそば屋は眠れない」
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手打ちそば屋 かんだた